大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和44年(ワ)8586号 判決

被告 協和銀行

理由

一  《証拠》によれば、被告は昭和四四年五月一五日訴外会社に対し、原告主張の信用状に基く輸出荷為替手形を買取り又は取立てたときは、その買取代金又は取立金の内金三〇万一〇〇〇円を株式会社大和銀行錦糸町支店の原告の当座預金口座に振込むことを承諾する旨の書面(右書面は後記のように、訴外会社作成名義の依頼書の部分と被告作成名義の承諾書の部分とが一体となつたものであつて承諾書の部分に実質上の意義が存すると認められるが、標題にしたがつて、以下輸出円貨代金振込依頼書と呼称する)を発行し、その後同年六月二日訴外会社から前記信用状に基く原告主張の輸出荷為替手形の取立の委任を受けてその取立手続をすすめ、同年七月二日右取立を完了したことが認められる。(原告は、訴外会社は昭和四四年五月一五日右荷為替手形を被告に売渡し、被告はその代金のうち三〇万一〇〇〇円を原告に対し前記預金口座に振込んで支払うことを約したと主張するけれども、そのような事実は認められない)。

二  さて、右認定のような被告による輸出円貨代金振込依頼書の発行行為が如何なる法律行為にあたるかについて検討する。

まず、甲第一号証の輸出円貨代金振込依頼書は、右の標題の下に、訴外会社名義で被告宛に、原告主張の信用状が表示された後に、「上記信用状に基き当社が、将来貴行に輸出荷為替手形の買取または取立を依頼する予定ですが、その際貴行において、支障なく買取または取立の節は、当該円貨代金より下記のとおりお振込みくださいますよう上記信用状の原本又は写(銀行証明済)を添えてお願い致します」云々と記載されて、前記のような振込先名、振込金額、振込先銀行名が記入され、更に被告銀行芝支店作成名義(ただし署名は、証人平野道明の証言によつて外国為替担当の支店長代理である平野道明のものと認められる)で訴外会社宛に、「上記の件承諾いたします」と記載されている。

そして、この種の輸出円貨代金振込依頼書は一般に、輸出貿易業者が輸出先の外国銀行の開設した信用状を、これに基く荷為替手形の買取又は取立を依頼する予定の国内銀行に預けて発行を受けるものであつて、その荷為替手形の買取代金又は取立金の振込先は通常当該輸出品の仕入先と定め、発行された振込依頼書は貿易業者から仕入先に交付され、これによつて仕入代金の支払の確実性を担保するために利用されることは、当裁判所に顕著であるばかりでなく、《証拠》によつてもこれを窺うに十分である。

以上の事実からすると、本件輸出円貨代金振込依頼書の内容は、改めて訴外会社から荷為替手形の買取の申込又は取立の依頼があり、かつ被告においてその買取を承諾し又は取立を完了することを停止条件とするものではあるけれども、その買取代金又は取立金中前記振込依頼のあつた金額については、直接原告に対し被告に対する債権を取得させる趣旨であり、右輸出円貨代金振込依頼書の発行により第三者のためにする契約が成立したものと解するのが相当である。被告は輸出円貨代金振込依頼書の発行は第三者のためにする契約にはあたらないと主張し、学説にはこれに相応する見解もあるが、にわかに賛成し難い。

三  そして、《証拠》によれば、原告は昭和四四年六月一〇頃被告に対し口頭で受益の意思表示をしたことが認められる。

四  なお、被告は、訴外会社の被告に対する前記振込依頼は、被告が輸出荷為替手形の取立金を支払う債務を訴外会社に対して負担していることを前提とするものであるところ、右訴外会社に対する債務は相殺により消滅したと主張するけれども、前記のとおり本件輸出円貨代金振込依頼書の発行は第三者のためにする契約であつて、直接原告に対し振込依頼のあつた金額を被告に請求する債権を取得させるものであり、被告は訴外会社に対しこれを支払う義務はないものと解すべきであるから、被告は訴外会社に対する相殺により原告に対する債務を消滅せしめ得ないものといわなければならない。

五  よつて、被告に対し本件荷為替手形の取立金のうち三〇万一〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四四年八月二三日から支払ずみに至るまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は正当であるから、これを認容

(裁判官 今村三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例